279080262_1389577101545309_333726618879500176_n.jpg

Diffusion of Nature「自然」をめぐる視点

雲ノ平山荘 アーティスト・イン・レジデンスプログラム 展示会

2022年4月19日(火)-2022年5月5日(木)

アーティスト

若木 くるみ

soar

加々見 太地

shibi

四ツ井 健

渋田 薫

マイマイ

齋藤 帆奈

只野 彩佳

大東忍

渡邊 慎二郎

渡邉 塊

森田 友希

 

キュレーター 伊藤二朗

_____________

 

 雲ノ平山荘アーティスト・イン・レジデンス・プログラムは、山小屋の現場から、社会と自然の調和をデザインすることをテーマとして2020年からスタートした。

 

 山小屋としてプログラムに取り組んだ原点には、雲ノ平を取り巻く自然環境(国立公園)の危機的な保全体制へのコミットメントがある。歴史的に見て、明治以降の日本では工業化に傾斜した近代化を推し進めるあまり、風土に培われた生活文化や自然観は急速に衰退した。他方、近代化の手本とした欧米では、産業革命へのカウンターとして多様な市民運動(芸術運動、人権運動、自然科学など)が台頭したことによって自然保護的な価値観が醸成されたものの、日本ではそれも根付かなかったため、自然観に著しい空洞化が生じている。こうした背景によって、自然と共存することの象徴として機能すべき国立公園も、消費的な観光地としての意味合いしか与えられず、システムの不全によって慢性的な存立の危機に直面しているのだ。そこに新しいインスピレーションと可能性をもたらすことを企図した。

 ただ、自然の価値をめぐる社会思想の基盤が弱い現状での活動は、かえって強い説得力が求められる。関心を持たない世論にも訴えかけるほど普遍的な表現領域に踏み込まなければ、 誰にも届かないからだ。なぜ「自然」は必要なのか。それは美なのか、科学なのか、物語なのか。 現代のグローバルな環境危機や情報化の混乱などの複雑な現状を認識した上で、いかに必然的な当事者性をもって「自然」を捉え、価値基準を提示できるのか、そのために自然の現場は何を表現し得るのかなど、明確なヴィジョンが不可欠である。ここでのアートの位置付けは手段ではなく、本質である。「自然」に分け入っていくことそれ自体がアートであるとも言える。その普遍性を見据えて、活動を展開したい。 

 

 果たして、「自然」とは何だろう。 人類は、数千年間に渡って理性を行使して繁栄を獲得しながら、過剰な開発が自らの生存環境を脅かすという、矛盾した状態の狭間で揺れ動く「自然」の一形態である。 産業革命以降、19世紀初頭には10億人に満たなかった世界人口はわずか200年で75億人に達し、その間の技術革新でエネルギーの消費量は100倍を越えたと言われる。私たちは、根本的に地球の気候を変えるところまで来てしまった。 一方で、環境危機の規模が大きくなる程に、エコロジーは形而上学的(あるいは資本主義的)な抽象度を高め、更には、急激に発達したデジタルシステムへの依存が、人間を自己の身体性という「自然」からも遊離させている。生活の自律性は解体され、決定的な経済格差とアイデンティティーの画一化がもたらされる中、環境正義以前に、自分の生命の小さな寄る辺を防衛することに必死な人々の姿がある。 繁栄と孤立、生命の豊穣、破壊とメタバースが乱反射する世界こそが、私たちの「自然」である。 

 豊かに生きようとするのなら、身体で感じる(に値する)世界を改めて発見するしかない。持続可能性とは、人々が積極的に「このままでありたい」と望む世界であって、それは美の概念や身体的な充足を抜きにしては成立しないだろう。その身体性を通してこそ、この惑星や、モニター越しの他者への想像力も機能するはずだ。手がかりとなるのは場所の共有であり「自然」との遭遇である。

 

 このプログラムは、人間社会から隔絶された雲ノ平という原野で、アーティストたちが一人の旅人 (媒介者)として原生自然に遭遇するという体験を通し、改めて私たちをめぐる「自然とは何か」 という問いに向き合おうとする試みである。 彼らが、雲ノ平という場所を、それぞれに異なる感受性で捉え、咀嚼することによって生み出す作品群は、色彩、造形、音、科学的考察、具象から抽象まで、実に多様で、豊穣なイメージとして実を結んでいく。 それは環境としての「自然」の多様性の反映であると共に、個々人に内在する「自然」と「社会」 の発露でもあることに、私たちは気づかされる。「自然とは何か」という問いかけは、いつしか反転して「人間とは何か」という問いに接続していくだろう。中心軸の無い流動的な二項対立を読み解くうちに、人と自然の複雑な関係性が、立体的な像を顕にするかもしれない。「自然」は人間を映す鏡であり、芸術表現は人間の内なる「自然」を映す鏡になる。 こうした実践が積み上げられる中で、社会が失ってきた自明なリアリティーを回復させる手がかりになれば良いと思う。

まずは、13人のアーティストたちの「自然」をめぐる旅を見てみよう。

_____________

アーティスト|

 

若木 くるみ|Kurumi Wakaki

1985年北海道生まれ。2008年京都市立芸術大学版画専攻卒業。2009年第12回岡本太郎現代芸術賞大賞。2013年六甲ミーツアート・ミーツアート大賞。2013年台湾環花東超級マラソン333km優勝。2021年京都市芸術新人賞。自らの剃り上げた後頭部に顔を描き、紙に転写する「顔拓」など、自身の身体を版として活用したインスタレーション、体力の限界に挑むパフォーマンス、オーソドックスな木版画まで、定まらない作風で迷い続ける。

 

soar

1980年兵庫県生まれ。京都嵯峨美術短期大学卒業後、建築関係の会社に就職。2018年soar(ソア)という名前で絵を描く事を始める。SNSテキスタイルデザインコンペサイトにて数々の作品が入選し商品化。「OZの女子旅EXPO」日本のローカルスタンダード公募展では「長野県」として参加。OZマガジン11月号に掲載。登山、スノーボードなどのアウトドアスポーツを通じて自然の中で感じる五感の素晴らしさに感動し、描くことで自然と人との関わりがさらに深い繋がりになることを思い「自然と人」との暮らし・遊びをテーマに模様の要素を取り入れた自然風景を描いている。

 

加々見 太地|Taichi Kagami

1993年神奈川県生まれ。2020年東京藝術大学大学院美術研究科彫刻専攻修了。自身の身体で感じた世界や自然を通して、彫刻や写真を発表している。登山活動にも力を入れており、ヒマラヤやアラスカでの登山を経験。人と自然との積極的な関わりに関心を持ち、自身の強烈な自然体験や、その周縁の文化や歴史を制作のテーマとしている。公益社団法人日本山岳会創立120周年記念事業ヒマラヤキャンプメンバー。

 

Shibi

1983年上海に生まれ、生後8ヶ月で日本へ。

高校卒業後、グラフィックデザインの専門学校で勉強を始める。2006年グラフィックデザイナーとして勤める。退職後、ワーキングホリデーや、バックパッカーとして旅をする海外での経験から、多くの刺激を受けてきた。30代で登山に出会い、自然のなかでのアクティビティに力を入れるようになる。様々な出会いや風景が物語性を持った作品につながっている。

 

四ツ井 健|Ken Yotsui

1962年金沢市生まれ。友禅作家。日本工芸会正会員。高校卒業後、金沢市内友禅染工房で10年間の修業を終了し友禅作家として独立。その後制作、販売ともに自由な活動を行い「友禅という仕事を通し何を社会に還元できるのか」を考え日々の制作を行っている。10年程前より友禅という伝統技法を通し「山」をテーマに制作発表を続ける。2009年第43回日本伝統工芸染織展・友禅着物「源流」で日本経済新聞社賞、2014年第48回日本伝統工芸染織展・友禅着物「流水」で東京都教育委員会賞等を受賞し、高い評価を受けている。

 

渋田 薫|Kaoru Shibuta

1980年生まれ。北海道出身。京都拠点。2003年KaneboMake-upInstitute、2000年PanMake-upSchool卒業。北海道の自然でのびのびと育ち、少年自衛官、メイクアップアーティスト、植物店、料理人などの職を経て作品制作を開始する。「世界は音によって繋がっている」という考え方に基づいて、音楽や自然音から得られた感覚を絵画やインスタレーションに変換する表現手法を追求している。2018年よりバルセロナ芸術文化センター、サンタモニカ美術館、エリザベスジョーンズアートセンター、Artist's Point Meghalayaなど世界各地のアーティストインレジデンスで制作発表を行う。受賞歴として2020年イタリア・アルテラグーナプライズ特別賞、SHIBUYA AWARDS2021 ShibuyaSoundMusic賞など。

 

マイマイ|Maimai

1983年愛知県生まれ。2007年帝京科学大学理工学研究科アニマルサイエンス専攻修了。大学院卒業後、フィジー・オーストラリアに滞在。その際衝撃を受けたことを得意な方法で人に伝えたいと思ったことから漫画家活動をスタートした。主に海外旅行のエッセイマンガ・ギャグマンガを発表している。プロレスラー練習生としても活動しており、年に1回ほど試合をすることも。第3回・第4回「地球の歩き方旅のコミックエッセイ大賞」佳作受賞。インターネットサイト「YAMA HACK」にて登山の入門マンガ「クマ先輩とオレ」連載中。

 

齋藤 帆奈|Hanna Saito

多摩美術大学工芸学科ガラスコースを卒業後、バイオアートプラットフォームのmetaPhorestに参加し、バイオアート領域での活動を開始。現在は東京大学大学院学際情報学府博士課程に在籍(筧康明研究室)。理化学ガラスの制作技法によるガラス造形や、生物、有機物等を用いて作品を制作しつつ、研究活動も行う。近年では複数種の野生の粘菌を採取、培養し、制作と研究に用いている。主なテーマは、自然/社会、人間/非人間の区分を再考すること、表現者と表現対象の不可分性。主な展覧会に「ノンヒューマン・コントロール」(TAV GALLERY, 2020)、「生態系へのジャックイン展」(見浜園, 2021)、「オープン・スペース2021 ニュー・フラットランド」(ICC, 2021-2) など。

 

只野 彩佳|Ayaka Tadano

1992年宮城県生まれ。2016年武蔵野美術大学造形学部日本画学科卒業。2018年東京藝術大学大学院美術研究科芸術学専攻美術教育修了。楮紙に、岩絵具、膠など日本画の画材を用いて風景画を描く。景色や日々など変わらないものはない中で、この世界の美しい形や表情を知りながら、その痕跡、希望を拾い集めて新たな風景を描こうとしている。2014年度三菱商事アート・ゲート・プログラム奨学生、シェル美術賞2016入選、2017年東京藝術大学安宅賞、第23回雪梁舎フィレンツェ賞展フィレンツェ大賞、FACE2022読売新聞社賞、個展ほか多数活動。

 

大東 忍|Shinobu Daito

1993年 愛知県生まれ

2019年 愛知県立芸術大学大学院美術研究科修了

2022年 秋田公立美術大学大学院助手着任

人間の生き様やどうしようもなさに関心を持ち、その痕跡の残る「物語る風景」を手掛かりに木炭画やフィルム作品を制作している。

盆踊りの愛好家でありライターとしても活動。祭りや民俗において露わになる人間の拠り所を、またひとつの物語る風景として、記録するように描く。個展に2019年「震えるおどり」(アーツチャレンジ愛知県美術館)。

 

渡邊 慎二郎|Shinjiro Watanabe

1995年愛知県生まれ。2021年東京藝術大学大学院博士課程在籍。空間や場所に浸る事で立ち現れる景色や事象との対話を通して作品を制作している。私たち人間の身体は動物性と植物性の両側面で成り立っている、という考え方から、作品を通して人間の中にある植物性を引き出し、普遍的な生き物としての精神性を獲得することを目的としています。主な展覧会に「Dyadic Stem」(The 5th Floor、2020)、「2020¦¦: Wardian case :¦¦」(BLOCK HOUSE、2020)、「Standing Ovation / 四肢の向かう先」(ACAO SPA & RESORT, 2021)

 

渡邉 塊|Kai Watanabe

1986年千葉県生まれ。

十才からクラシックギターの演奏を始める。ニューヨークのマンハッタン音楽大学在学中、音が即興的、臨床的に用いられる創造的(ノードフ・ロビンズ)音楽療法の現場に惹きつけられ、活動を開始。その後は国内外を渡り歩きながら「人と人が本当に繋がるとはどういう事なのか」を思索の中心において、演奏を続けている。

 

森田 友希|Yuki Motita

1989年生まれ。2012年、明治学院大学社会学部社会学科卒業後、写真家としての活動を始める。自己や他者の記憶のイメージを収集し、物語の構造をとりながら「不在」をテーマに写真や映像作品を展開。2016年「TOKYO FRONTLINE PHOTO AWARD #5」グランプリ受賞。2017年、写真集「OBLIQUE LINES」をイタリアの出版社「L`ARTIERE EDIZIONI」 コレクションとして刊行。自主企画の個展やグループ展の実施、企画展などに参加しながら制作活動を続ける。

​_____________

展示期間中のイベント 

 

・4月23日(土)15:00-17:00 アーティストトーク

           

・4月24日(日)17:00-19:00 ゲストトーク ゲスト:宮台真司(社会学者) 

                       ※予約の受付は終了いたしました           

・4月29日(金)15:00-17:00 アーティストトーク

 

会期

2022年4月19日(火)-2022年4月30日(土) 会期中無休

​開場時間

13:00-20:00 (最終日 11:00-15:00)

​会場

【第一会場】HB.Nezu: 東京都台東区池之端2-6-12-201
【第二会場】The 5th Floor:東京都台東区池之端3−3−9花園アレイ5階

​※第一会場からご覧ください

​アクセス

HB.Nezu: 千代田線根津駅2番出口より徒歩2分

The 5th Floor:千代田線根津駅2番出口より徒歩4分

入場料

¥500​  ※Book付き

キュレーター

伊藤二郎

協賛

AND DESIGN INC./川原真由美/渡辺歯科医院

Twitter

​Instagram

@kumonodairahut
@kumonodairasanso

主催

雲ノ平

共催

The 5th Floor

協力

HB.Nezu

賛助

D/C/F/A

お問い合わせ

雲ノ平:kumonodaira@kumonodaira.net

​The 5th Floor:info@the5thfloor.org